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AI生成物の利益還元モデル(前編)

 

※本コラムは、執筆者の私見によるものであり、所属団体その他の見解を代表するものではありません。また、執筆者の過去学会発表・論文・書籍・ブログなどですでに発表済みの内容を再編集しています。

IP Scopeの狙いは、特許をはじめとする知財に関する情報を分析することによって、技術動向や今後の予想、企業の技術戦略を見つけ出すことにある。ビッグデータ時代である現在は、データ分析によって新たな知見を見出し、それを企業の戦略やオペレーションに活かすことが重要になってきている。

一方、特許という技術分析のみで企業の戦略やオペレーションを立案することは危険である。「ルール形成」という分野があるように、現状の問題点を把握して、「標準化」なども組み合わせて新しい「ルール」を作っていくことをリードする必要性も時には生ずる。

このコラムでは、NBIL-5による環境やテクノロジーの最新状況分析を踏まえ、それぞれの分野の動向や課題を明らかにしていく。

まずは、以前より本問題に関して主張していたことからは予想通りだが、AIの学習データは裁判多発だ。

「ディズニーなど、米AI新興を著作権侵害で訴え 映画大手で初」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN11DXI0R10C25A6000000/

「BBC、米AI新興に法的措置警告 自社コンテンツの利用巡り」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2096W0Q5A620C2000000/?msockid=357ee500df386908312ef766de426860

その反面還元モデルも動きつつある

「AI学習の対価還元プログラムがスタート!あらたな収益の仕組みでより創作を続けやすく」note公式, 2025年6月17日 https://note.com/info/n/n49bbcbdefe1a

さて、以前から様々書いているが、もう一度おさらいをしたい。

生成AIの利益還元モデルの必要性

▶ 問題の背景:生成AI市場は2030年までに1,100億ドル以上の規模への成長が予測される一方で、声優や俳優などの一次著作物の音声・映像データが無断でAI学習に使用され、本人への対価還元がなされなければ深刻な問題が発生しています。現状では、AI生成物の帰属が不明確で、元データ提供者への適切な還元システムが存在しません。その為、声優や俳優より反対の声が上がっています。

逆に言えばこれは社会課題ニーズともいえます。

※根拠
▪️https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/generative-ai-market-report
「2030年までに1,093億7000万ドルに達すると予測」
▪️https://www.statista.com/outlook/tmo/artificial-intelligence/generative-ai/worldwide
「2031年までに市場規模は4,420億、7000万米ドルと予測」
▪️https://www.abiresearch.com/news-resources/chart-data/report-artificial-intelligence-market-size-global
「2030年には4,670億米ドルに達すると予測」
▪️https://wired.jp/article/hollywood-sag-strike-artificial-intelligence/
「ハリウッドのAI使用反対ストライキ」
▪️https://www.nippairen.com/about/2025.html
わが国においても日本俳優連合をはじめ関連団体が精力的に意見を主張中。

やはり必要だった?著作権法30条の4

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「著作権法第30条の4は、世界で初めて導入された独創的な社会イノベーションであり、このような独創的な社会イノベーションは、日本の将来にとって極めて重要である。著作権30条の4の作成に尽力された人々は、とても素晴らしく、このように、世界初の独創的な制度を導入することは、今後も引き続き極めて重要となると考える。」    岡本 義則弁護士
——————————-  

参考(条文)
▶ 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照ららし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
▶ 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
▶ 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合
▶ 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現としての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあっては、当該著作物の電子計算機による実行を除く。)に供する場合

なお、引用の弁護士は、褒めながらそれでも不足とのスタンスではある。

構造的問題が考えられるゲーム理論による問題構造解明・当初

分析は不十分であるが、現実の状況が理論的予測と一致してきているのが現状である。  
すなわち、AI企業も権利者も協力するのがパレート最適なはず。しかし、囚人のジレンマが生じてしまい、ナッシュ均衡は望ましくない部分になっているはず(仮説)というのが筆者のかねがねからの仮説だ。
なお、この仮説検証は正確には出来ていない。

補足:AI企業の最適反応
著作者が「協力」の場合:許可取得使用 → 6許可なし使用 → 8 ★(より良い)
著作者が「非協力」の場合:許可取得使用 → 2許可なし使用 → 3 ★(より良い)
結論:AI企業にとって「許可なし使用」が支配戦略

著作者の最適反応
AI企業が「許可取得使用」の場合:協力 → 6 ★(より良い)非協力 → 2
AI企業が「許可なし使用」の場合:協力 → 1非協力 → 0 ★(より良い)
結論:著作者には支配戦略がない(相手の戦略に依存)

この為、AI企業の許可なし使用が支配戦略の以上、著作権者は、「非協力」をとるはずで、要は裁判になるはずと・・・。
現実そうなってきている為この分析は理論的正確性が微妙だが、少なくとも合っているはずなのだが・・・どうであろうか。

その上で、日本での30条の4の意味をそこから考えよう。

構造的問題が考えられるゲーム理論による問題構造解明-著作権法三十条の四

要するに少しは30条の4は社会改善を図っているものといえなくはない。
全く改善にはなっていないと思うが、少なくとも、AI企業VS著作権者で泥沼の訴訟よりはよいと言えなくもない。
これにより、単なる搾取の構造ではないかという?問題が生ずるが・・・。

これも理論的な厳密性を欠いているが以下のようにナッシュ均衡が30条の4により動いているはずである。

補足:AI企業の最適反応
著作者が「協力」の場合:正当使用 → 6

        無断使用 → 8 ★(より良い)
著作者が「非協力」の場合:正当使用 → 2 ★(唯一の選択肢)

           無断使用 → 選択不可

著作者の最適反応
AI企業が「許可使用」の場合:協力 → 6 ★(より良い)
           非協力 → 2
AI企業が「許可なし使用」の場合:
協力 → 1 ★(唯一の選択肢、非協力は規制で阻止)

新しいナッシュ均衡
ナッシュ均衡:(無断使用, 協力)= (8, 1)
法規制の効果

著作者 – AI企業が許可なし使用する場合、著作者は協力せざるを得ないが、規制により最低限の保護は受ける(不当利用は禁止)
AI企業の行動変化 – 依然として無断使用のインセンティブが残る(8 > 6)
社会的効率性 – 合計利得は9(8+1)で、パレート最適の12(6+6)には及ばない  

となるように政策誘導したはずだ。

しかしこれでは著作権者側に不利なかたちであることは明らかだろう。

市場の失敗?

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