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【第3回】特許に見る日本のAIの実力
-日本が強い分野-

企業の戦略に活かすべきテクノロジー

企業の戦略に活かすべきテクノロジーは何か ー最新の特許分野のデータ分析から

特許分野のデータ分析IP Scopeの実践として、テーマごとにNBIL5による特許分析とその分野を取り巻く環境やテクノロジーの最新状況を踏まえ、それぞれの分野の動向や課題を明らかにする本コラム。

第3回は日本がリードするAI特許分野の傾向を俯瞰し、特許出願の活用方法について考えてみたいと思います。

1. 日本が世界をリードするAI特許出願分野

前回は、日本のAI関連特許の出願数上位5分野である車両・交通制御、言語・音声技術、AIコア技術、画像処理・通信、制御・工場系のうち、AIコア技術に関する過去の経緯、深層学習の活用が進む言語・音声系について触れました
(分類については、「特許に見る人工知能動向と日本の実力」をご参照ください)。

今回は、上位5分野の中の、車両・交通制御系、画像処理・通信、制御・工場系における日本の強みを見てみたいと思います。
これらの分野は自動車やカメラ、製造技術など、日本が実際の事業でも強く、リードをしている分野です。
そのAI特許出願数とその出願企業の傾向から、今後の動向を考えてみたいと思います。

2. 車両・交通系のAI特許出願状況

AI特許出願上位表

車両・交通系の分野では、トヨタ自動車が国内出願数4,300件と、2位のデンソーの1739件に大きく差をつけています。
トヨタ自動車は、米国と中国でも出願数1位となっており、世界一として他社に大きな差をつけています。

トヨタ自動車は、2016年にTOYOTA RESERCH INSTITUTE, Incをシリコンバレーに設立し、マサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学と連携したAIの研究を始めています。
ここでの研究の狙いとしては、車の安全性の向上やこれまで以上に幅広い層への運転機会の提供、よりクルマを利用しやすいものとすることなどを挙げています。
特許出願数は、このような自社研究への投資の成果が表れたものだと言えます。
トヨタ自動車はこのような自社開発だけでなく、ベンチャー投資なども行い、AI活用を積極的に行っています。

トヨタAI活用事例

自動車業界は今、大きな変革を迎えようとしています。その焦点は、CASE (Connected, Autonomous, Shared, Electric) と呼ばれています。

  • Connected:自動車がインターネットに常時接続した状態になり、ネットワーク経由でソフトウェアやコンテンツ、データのやり取りができるため、どこでもソフトウェアの保守やアップグレードができるようになります。また、情報や音楽・ビデオなどのコンテンツの提供も可能になります。さらにこのようなシステムの保守や利用者へのソフトウェアや情報の提供だけでなく、自動車や利用者、周囲の状況などのデータ収集も可能になり、その解析結果をフィードバックしたり機能強化に使ったりすることもできるようになります。
  • Automated:自動運転による事故の低減などの安全性向上や、運転負担の軽減、交通渋滞の軽減等を図ることができます。
  • Shared:カーシェアリングやライドシェアリングなど、自動車分野においてシェアリング・エコノミーによる移動を実現し、より便利にします。
  • Electric:環境保護の観点で、電動化が推進されています。欧州グリーンニューディール政策は、2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げており、「2035年に内燃機関(ICE:インターナル・コンバッション・エンジン)の新車販売を実質的に禁止」という完全EV化の方針が発表されています。
車両・交通制御関連出願数

この分野では、図2のように継続して日本の出願が増えています。
今後の自動車や自動車産業の変革の中では、自動運転以外にもさまざまな分野において、制御やアシストなどの自動化の分野でAIの担う役割が増えてきます。

このような変化は激しく、2022年になってからも、「トヨタ自動車が2025年までに自動運転に対応する独自の車載OS(Operating System)の立ち上げを計画」や、「ソニーグループがEV事業を展開する子会社を設立」などのニュースが報じられ、その動きは加速し、競争も激しくなってきています。
そして、その中で競争力を維持するためには、AI技術力や活用への投資が重要なものとなっています。

3. 画像処理・通信分野のAI特許出願状況

画像処理・通信分野出願数 画像処理・通信分野出願数推移

画像処理・通信分野も、日本企業の強い分野です。この分野における日本の特許は、図4のように継続して出願が続いており、2017年からは加速しています。
その中のデジタルカメラについては市場が縮小している分野ですが、下記のように日本企業が5位までを独占しています。

【2020年のデジタルカメラの世界シェア(出荷台数885万台、前年比-40.3%)】

  • – 1位 キヤノン 47.9%(+2.5)
  • – 2位 ソニー 22.1%(+1.9)
  • – 3位 ニコン 13.7% (-4.9)
  • – 4位 富士フイルムホールディングス 5.6%(+0.9)
  • – 5位 パナソニック 4.4%(-0.3)

また、さまざまな画像処理に使われ、自動運転などで成長がさらに広がるCMOSセンサーにおいても、下記のように日本のソニーが世界第1位となっています。

【CMOSセンサー世界シェア(出荷額166億ドル、前年比+10.3%)】

  • – 1位 ソニーセミコンダクタソリューションズ 48.6%(-4.9)
  • – 2位 サムスン電子 20.1%(+2.0)
  • – 3位 オムニビジョン 12.4%(+1.0)
  • – 4位 SKハイニックス 4.0%(+1.6)
  • – 5位 オン・セミコンダクター 3.8%(-0.5)

このような製品や製品の応用に関する日本企業のAIに対する取り組みは積極的で、キヤノンが日・米・中のなかでAI特許出願数1位となっています。
キヤノンは、デジタルカメラ分野のリーダーであるとともに、画像や画像処理の分野にも事業を拡げています。
2015年には当時ネットワークカメラ最大手であったスウェーデンのアクシスコミュニケーションズを買収し、2016年には東芝メディカルシステムの子会社化も行っており、CTやMRI、X線などによる画像診断にも強みを持っています。

画像診断

このような製品のインテリジェンスを高め、製品の応用を高度化するのにはAIが役立ちます。
デジタルカメラ出荷台数世界第2位でCMOSセンサー出荷額第1位のソニーも米国でのAI特許出願数4位となっており、これらの企業がAIに関する投資を行っていることがわかります。
画像処理や画像処理の分野におけるデジタルカメラの市場は縮小しつつありますが、機械の目として情報を収集し、それを認識したり解析したりする監視カメラや医療画像解析、自動運転での画像解析、カメラの制御、画像認識、画像応用などでのAI活用は増えており、今後もAIの重要性はさらに高まっていくでしょう。

4. 制御・工業系のAI特許出願状況

制御・工業系出願企業 制御・工場系出願推移

製造業は、日本の成長を支えてきた分野です。
図6に示すように、その特許は一時出願数の伸びが鈍化していましたが、2017年からは加速しています。
この分野では、東芝と日立製作所が出願数で世界第1位を争っています。
2社以外でも産業ロボットで世界4大メーカーとなっているファナック、ABB(スイス)、安川電機、KUKA(ドイツ)の一つとなっているファナックが中国で1位、米国で3位となっており、トヨタ自動車も国内では7位ですが、米国と中国では4位となっています。

製造においても変革が進みつつあり、EUを中心としたIndustry4.0、中国製造2025と呼ばれる動きによって大きく変わりつつあります。
Industry4.0ではIoTや分散制御、AI、データの活用によって部分最適から全体最適の変貌を実現し、顧客からの要望に迅速に、かつ量産コストでの対応を可能にし、サプライチェーンや運用・保守の変革を図ることによって製造を大きく変革することを目指しています。
中国製造2025では、2025年までに中国が製造強国への仲間入りすることを目指し、製造のプロセスや製造技術の変革に力を入れています。
日本でも「コネクティッド・インダストリーズ」を推進しており、データ連携・活用による生産性向上やセンサー、ロボット、生産機器のスマート化を進めようとしています。

ロボット

このように、製造の変革競争は世界中で起こっています。
これらの動きの中ではデータの活用分野やAIの応用分野が広がっており、ますますAI技術への投資が重要になってきています。

以上のように、車両・交通制御系、画像処理・通信分野、製造・工場系などの日本が強い分野では、AIに関する特許出願が継続的に行われており、AIの活用が進められていることがわかります。
これは、製品や仕組み強化へのAI技術の活用や応用に関する投資が積極的に進められているということでもあります。

5. 「攻め」と「守り」の特許活用方法

単にアイデアを特許とするだけでなく、その特許の活用方法に関しても考える必要があります。
AI分野ではありませんが2021年12月9日、日経新聞に「つながる車で特許紛争」という記事が掲載されました。
CASEの内のConnectedに関する特許紛争です。
米IV(Intellectual Ventures)が、同社のWiFiを使う際の通信方式や、車載機器が外部通信網と接続しやすくなる技術に関する特許に関して、同社の特許技術を組み込んだ部品(独コンチネンタル、米クアルコム製)を使用しているトヨタ自動車などを訴えたのです。
このように、特許は自社の技術領域を保護して他社の市場への進出を防ぐ「守り」の役割になるだけでなく、「攻め」にも活用ができます。

「守り」の意味では、自社の競争力と直結する特許をライセンス等には使用せず、大切に管理することも必要になります。
また、逆にビジネス拡大の観点では、特許を開放して自社の技術を業界標準とする戦略も必要になります。

一方、「攻め」の特許は自社の技術領域外でも取得することができ、特許のライセンシングを行って収益を得ることもできます。
その中には、技術の活用方法を、ビジネスモデル特許として出願することも含まれます。

AI

このようにアイデアを特許とするときには、「守り」「攻め」「標準化」といった特許の活用方法についての検討も必要です。
そして、「攻め」に関しては、自社のビジネス領域以外に関するものであっても、特許取得の検討が必要であると言えます。

次回は、AI特許の出願人や出願動向を基に、米国、中国のAIへの取り組みや特許に対する考え方について掘り下げてみたいと思います。

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