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【第1回】「最新分析」特許に見る人工知能動向と日本の実力

IP Scopeの狙いは、特許に関する情報を分析することによって、技術動向や今後の予想、企業の技術戦略を見つけ出すことにあります。
ビッグデータ時代である現在は、データ分析によって知見を見出し、それを企業の戦略やオペレーションに活かすことが重要になっています。

このコラムでは、特許分野のデータ分析であるIP Scopeの実践として、テーマごとにNBIL5による特許分析とその分野を取り巻く環境やテクノロジーの最新状況を踏まえ、それぞれの分野の動向や課題を明らかにしていきます。

1. AIとは

最初のテーマとして、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を取り上げます。

AIとは「学習・推論・判断といった人間の知能の持つ機能を備えたコンピュータシステム(『大辞林』より)」のことであり、従来は人間にしかできなかった認識や推論、言語活用、創造などを行うことができます。
そのため活用分野は広く、さまざまな方面で活用が広がっています。

AIを使った画像認識は、顔認証による「顔パス」や工場での不良品発見に、またAIによる予測は、機械の予防保守や金融の投資判断・取引、コンビニなどの販売量予測と発注、創薬や診断、チェス、囲碁、将棋等のゲームなどに幅広く活用されており、スマホのAI機能、AIスピーカや無人コンビニなど、身近な生活範囲にも活用例を見ることができます。

AIに関しては、日本は遅れていると言われています。
今回は、本当に日本は遅れているのか、どこが遅れているのかについて、NBIL5による特許分析から検証してみたいと思います。

2.日本と米国・中国とのAI特許公報数の違い

この分析においては、言語・音声技術、AIのエンジンや半導体などのAIコア技術、画像処理・通信、情報検索などのAI技術自体をAI関連技術、その利用分野である車両・交通制御関連、制御・工場系、ビジネスモデル、医療関係をAI利用技術としました。

グラフ1にあるように、日本のAIに関する特許公報総数は、関連技術では米国の1/2以下、中国の約1/3であり、同様に利用技術でも米国、中国の約1/2となっています。
このように総数では、米国や中国と大きな差があります。

また、公報数の近年の伸びを見ると、AIに関する取り組みの差をさらにはっきりと見ることができます。

グラフ2は、各年度の公報数の変化と日・米・中の伸びの違いを明らかにするため、2021年の各国の公報数を100%とし、それに対するそれぞれの年の公報数の割合をプロットしたものです。
このグラフを見れば、ブームの到来時期を見ることができます。
中国は2015年~2017年に急激な伸びを始めており、同様に米国も同時期から伸びが急増しています。これはAIの第三次ブームによるものです。

3.AIブームの歴史

ここで、AIのブームについて振り返ってみましょう。

第一次ブームは1960年代に起き、パズルや簡単なゲームにおいてAIがその性能を発揮し、AIへの期待が高まりました。
チャットロボットの原型とも言える、人と対話するELIZAと呼ばれるプログラムも生まれました。
この時のAIは、単純な問題には効果が出ても複雑な問題に関しては対応できず、またプログラミングによる実装の問題もあってブームは終焉しました。

第二次ブームは、1980代のエクスパートシステムによるブームです。
エクスパートシステムは、専門家の知識を入力することによって、専門家並みの答えを返してくれるシステムです。
病気の診断から始まり、さまざまな課題に関して作成され、多くの企業が業務に導入しました。このエクスパートシステムは、膨大な知識を人間が手動で入力する必要がありました。
また、コンピュータの能力不足から例外処理や知識に矛盾があった場合には対応ができなかったため、狭い領域での活用しかできず、ブームは下火となりました。

現在の第三次ブームは、コンピュータ処理能力の増大と、手動入力が不要になることによって起こりました。
すなわち、AIの処理を行う専用チップ、GPU(Graphic Processing Unit)の活用などによるコンピューティングパワーの増強、データを大量に安価に蓄積できるクラウドの広がり、そして人による入力やプログラミングなしにAI自身がデータから学習をする機械学習、ディープラーニング(深層学習)の登場によって、AIの技術開発や活用の広がりが起こったのです。

機械学習は、人間が定義した目標に対する特徴量をコンピュータ自身が大量のデータから学習してアルゴリズムやモデルを構築する技術であり、一方深層学習は、この特徴量もAIがデータから見つけ出す方法です。
深層学習が第三次ブームの加速要因となっていることは、下記グラフ3からも明らかです。2016年ごろから深層学習の公報数が急速に伸びており、AI全体の伸びを牽引していることがわかります。

コンピュータパワーによるAI能力の急激な伸びを示し、自ら学習する能力を得た例は、GoogleのAlphaGOに見ることができます。

2016年3月、Google社のAlphaGOは、世界最強の棋士を破りました。
そこで使われた手法は「強化学習」というもので、囲碁に勝つための特徴を深層学習によって見つけ出すために自己対戦を繰り返します。何万回もの繰り返しによって、より確からしい勝つための特徴を見つけ出していきます。

次の学習方法の進化は、「教師なし学習」です。
「強化学習」では定石や人間の棋士の棋譜をデータとして用いていましたが、AlphaGO ZEROではそのデータなしに、ルールだけからスタートして何百万回の自己対局を行って学習していく教師なし学習を実現しました。
さらにAlphaZEROは、囲碁だけでなくチェスや将棋に関しても成功を収めました。

このようにAIのパワーアップによる複雑な問題への対応、深層学習を使ったAI自らの学習によるAI機能の強化に加え、AIのチップ化によってどこにでもAIの機能を実装することが可能になり、第三次ブームへと繋がったのです。

4.米国・中国のAI産業の活性化と日本の課題

米国ではGAFAM(Google Apple Facebook Amazon Microsoft)を中心にAI開発が進められ、AIチップやAIスピーカ、画像認識、言語認識のサービスやビジネスへの活用、AI利用サービスなど、幅広い分野での活用が行われています。

中国では2017年7月に「次世代AI発展計画」が発表され、2030年までにAIを「理論、技術、応用のすべての分野で世界トップ水準」に引き上げ、中国を世界の主要なAIイノベーションセンターにすることを目指すことを目標に進められており、重要分野として自動運転、ビッグデータ、スマートシティ、医療、自動翻訳、軍事が挙げられています。

このような米国、中国の動きと比べて日本の動きは穏やかであり、第三次ブームにあるにも関わらず、AI産業の著しい伸びは見られません。
その要因は、下記のようなことにあると言われています。

  • 企業の消極性:海外の動向をうかがっており、実際の活用へは至ってない
  • 人材不足:AI技術の開発、応用を行える技術者やデータサイエンティストの不足
  • AIに対する否定的な考え:「AIによって仕事が奪われる」などの考え

日本では、新しい技術に対して取り組みが遅れる傾向がありますが、それだけでなくAIの持つ特性も関係していると考えられます。
AIはデータから経験を学習して認識や推論、言語理解などのタスクを実行するため、データが不足していたり偏っていたりすると、誤った答えを出したり、正しい判断ができなかったりすることがあります。
しかし、この問題に関しては議論が進んでおり、AIを正しく活用するためのAI倫理規定が企業などで作られています。

EU(欧州連合)が2021年4月に発表したAIの利用を制限する包括的な規制案では、AIの活用を禁止する分野やAIの活用に注意しなければいけない分野での必要な検討項目について述べられています。
日本においても、このように正しいAIの活用を想定して、技術開発や活用を広げていく必要があります。

5.日本のAI技術の活用状況

2021年現在の日本でのAIの活用状況を、PwC Japanの調査報告「2021年AI予測(日本)」に見ることができます。
この調査報告では日米会社を調査しており、AI活用を積極的に進めている企業が増えており、実際の成果にもつながっていることが見て取れます。
コロナ禍でAI活用の取り組みが加速した企業は、米国では52%、日本では32%となっており、企業の競争力としてのAI活用が始まっていることがわかります。

しかし、その活用分野の傾向は、日米で異なっています。
米国ではAI投資からリターンを得ている企業の割合が高い活用分野の上位が、より良い顧客体験(新しい売り方、サービス、サービスモデル)67%、社内の意思決定54%、製品やサービスの革新53%、より効率的な業務運営や生産性向上52%であるのに対し、日本ではより効率的な業務運用や生産性向上30%、製品とサービスの革新24%、コスト削減の実現23%、リスク低減22%となっています。
米国ではより良い顧客体験や意思決定、製品とサービス革新といった「攻め」の活用が上位であるのに対し、日本では業務運用や生産性の向上、コスト削減、リスク低減といった「守り」の活用が上位を占めているのです。

このように日本では、活用の広がりや攻めなどの重要分野での活用において遅れていることがわかります。
数で劣っていても、得意分野やユニークな分野があれば、それが競争力となります。
下記のグラフ4とグラフ5は、関連技術と利用技術の日本の特許数上位です。

次回では、これらの分野での動向やどのような会社が出願しているのか、また、どのようなことが必要であるのかを分析することによって、日本の強さ・弱さについて掘り下げてみたいと思います。

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