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AI生成物のオーサーシップ 〜第二章 歴史〜

※本コラムは、執筆者の私見によるものであり、所属団体その他の見解を代表するものではありません。執筆者の過去学会での発表や論文、書籍、ブログなどですでに発表済みの内容を再編集したものです。


ビッグデータ時代である現在は、データ分析によって知見を見出し、それを企業の戦略やオペレーションに活かすことが重要になってきている。IP Scopeの狙いは、特許に関する情報を分析することによって、技術動向や今後の予想、企業の技術戦略を見つけ出すことにある。

一方、特許という一部の技術の分析のみをもって、企業の戦略やオペレーションを立案することは危険であると思われる。「ルール形成」という分野があるように、現状の問題点を把握して「標準化」することなどとも組み合わせ、新しい「ルール」を作っていくことをリードする必要性も時には生ずる。

このコラムでは、NBIL-5による環境やテクノロジーの最新状況の分析を踏まえ、それぞれの分野の動向や課題を明らかにしていく。

昨今ではAIによる作品の生成(以下「AI生成物」)が多く行われており、中長期的には何らかの「ルール形成」が必要となると思われる。特に、権利帰属の問題は大きな問題となるであろう。そして裏テーマとして、この問題は著作権法に対して激震を与えうる問題となっている。そこで、まずはAI生成物に関してのここ10年ほどの歴史を振り返り、課題は何であり、どのようなルール形成が必要となるかを考察していきたい。

第二章 歴史 (第二回目コラム 前編)

【黎明期】

1.2012年頃よりAIが飛躍的に発展する

すでに10年前以上のことの解説になるが、第三次人工知能ブームと呼ばれる現象が2012年前後から巻き起こり、現在もその流れの延長線上にあると言われることがある。

人工知能はこれまでにも何度かブームが起こっており、1回目のブームは「パーセプトロン」と呼ばれる技術を中心にして1958年頃に巻き起こった。その後、2回目のブームが「多層パーセプトロン 」(誤差逆伝播法)と呼ばれる技術を中心にして1986年頃に起こる。どちらもさまざまな問題に直面し、一過性のブームであるともいわれることが多かったが、3回目として2006年頃より「Deep Learning」と呼ばれる技術を中心にしたブームが巻き起こり、この技術によって画像認識のAIの性能は2012年頃から飛躍的に向上した。そして、この3回目のAIムーブメントは10年以上にわたって続いており、現在に至っている。

細かい技術的、あるいは歴史的な経緯は紙面の関係上で省くが、特にこの2012年頃からのAI技術の革新的発展はめざましく、今日まで続く著作権関係問題の萌芽もこの頃に起こったといえるだろう。

AIとしては「アルファ碁」が有名であるが、国内でもAIによる創作活動のプロジェクトが進められており、例えば2012年9月にスタートした、公立はこだて未来大学の松原仁教授を中心とした「きまぐれ人工知能プロジェクト:作家ですのよ」チームの活動が非常に有名である。この活動ではAIによる星新一風のショートショート小説の創作が目指されており、その作品は第3回日経「星新一賞」で1次審査を通過し、「人工知能創作小説、一部が『星新一賞』1次審査通過」(日本経済新聞)と報道された。また、鳥海不二夫・東京大学准教授らによる「人狼知能プロジェクト」によって生み出された作品の一部が人間による通常の作品コンテストの1次審査を突破するなど、一定の成果があげられている。

前者は、「登場人物の設定や話の筋、文章の『部品』に相当するものを人間が用意し、AIがそれをもとに小説を自動的に生成した」(前掲日本経済新聞記事)ものであり、後者は「『人狼ゲーム』という人気のある推理ゲームをAI同士にやらせ、面白い展開となったものを選んで、それを人間の手で文章にした」(前掲日本経済新聞記事)ものである。

なお、これらがコンテストに応募する際には著作権や応募規定に細心の注意が払われており、星新一の遺族への了承取り付けや「人間以外も応募可」という規定の確認など、きめの細かい配慮もなされていた。

2.2015年頃にはAIの人間レベルの創作が可能に

このような技術向上によって2015年頃にはほぼ人間相当の創作活動のようなことをAIが行うことが可能となってきた。具体的には、2015年頃にはいわゆる「プロジェクトレンブランド」によってレンブランド風の新作絵画をAIが生成することが可能となり、一定の創作的活動(創作類似活動)をAIが行うことができることが示された。

AI創作による絵画

3.2016年、知的財産推進計画にAI生成物が初登場

このような流れを受け、AIによる創作的活動(疑似創作活動)の成果物をどのように扱うかという、特に著作権を中心としての課題が生ずることとなる。そして2016年、我が国の知的財産推進計画に「AI生成物」という用語が登場した。

【混迷期】

4.知的財産推進計画において一応の結論が提示される

知的財産基本法第23条により毎年作成・公表される「知的財産推進計画」では、2016年版から2018年版までで「AI生成物」と呼ばれる新しい生成物の問題が取り上げられている(各知的財産推進計画:首相官邸知的財産戦略本部HPより)。

もちろん、それまでにもAI生成物に対する検討は行われてきた。例えば、著作権審議会第2小委員会が「コンピュータ創作物」の著作物性等についての検討を行い、1973年6月に報告書を公表している。さらに「著作権審議会第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書」が1993年11月に公表されており、この問題について議論されてきたことがわかる。

AI生成物とコンピュータ創作物の最大の相違点は、知的財産推進計画2017年によると、AI生成物が「人間の創作的寄与がない、AIが自律的に生成したもの」とされる点であり、その場合において著作物性はないとされる。一方、「AIを活用した創作について、AI生成物を生み出す過程において具体的な出力であるAI生成物を得るための人間の創作的寄与があれば、『道具』として AIを使用したものと考えられ、当該 AI生成物には著作物性が認められる」(知的財産計画2017年p.13)とし、人間の創作的寄与がある場合は著作物性があるとされる。AI生成物であるか否かは、人間の創作的寄与があったか否かによるものとなっている。

以上のように、一旦は「人間の創作的関与のないAI創作物は著作物性なし」「人間の創作的関与のある(AI)生成物は著作物性あり」という結論が示された。

5.知的財産推進計画では事実上の結論先送り

しかし、これは決定的とは言いがたい結論であることは否めない。このように、一度は方針が定められたもののさまざまな議論があり、その後2019年の知的財産推進計画においては今後の技術動向を見て検討する旨が示され、事実上の結論先送りが行われた。

(つづく)

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